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「梓、おはよ」
教室に入り自分の席に座ると聞き慣れた声に振り返る。
「ちゃこはよー」
「さこだっつーの」
クラスメイトに軽く突っ込みながらこちらへやってくるのは泉茶子。一年の時から一緒で一番の仲良し。七月になってもまだ名前でいじってくるしつこいクラスメイトにも笑顔で対応する気の良い女の子だ。
「おはよー、茶子」
「今日本当暑すぎ。暑いしか言えない」
「ね。教室クーラーつかないかなー」
「無理でしょ」
「おーし、ホームルーム始めるぞ!みんな席つけー」
茶子と取り留めのない会話をしていると、担任が教室に入ってきた。
「まず出席とるからな」
出席という言葉に心臓がどきりとわずかに動く。一日の始まりであるホームルームの、出席をとる時間。私には穏やかでいられない理由がある。
出席番号一番は私青山梓。適当に返事をしつつ、次々と名前を呼ばれるクラスメイトの返事も聞き流す。どきどきが加速していく。
「持田」
「はい」
「矢野」
「はーい」
「吉川」
「はい」
きた。どきどきが最高潮に達する。周りに気づかれないように平静を装いながら、口から心臓が飛び出ないように片手で強く押さえる。この瞬間、私の心臓はいつもの二倍のスピードでリズムを刻む。
吉川翔。今年から同じクラスになった。この間の席替えで隣の席になった時は思わずガッツポーズしてしまうかと思った。高すぎず低すぎない落ち着いた声。たった二文字が身体中を震わせる。私が穏やかでいられない理由はこれだ。
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