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恋人の涼子が事故で亡くなってから早一年。暑い夏の日だった。買い物に出掛けた途中で、車に跳ねられてそのまま帰らぬ人となってしまった。
休日に俺はリビングで麦茶で涼んでいると、風が吹いて風鈴がチリンと鳴った。すると、そこには涼子が立っていたのだった。
「涼子?」
涼子の手は、俺の頬に触れていた。とても冷たかった。
「会いたかったわ、元気そうで良かった!」
「涼子、もしかして君は?」
すると、涼子は姿を消してしまった。
その1年後、また暑い夏はやってきた。ジリジリと照り付けるような太陽。俺は、汗ばんだ額をタオルで拭き取りながら、自宅へと急いだ。
「クーラー、クーラー」
クーラーのスイッチを入れようとしたら、風鈴が鳴った。振り向くと涼子の姿があった。
「涼子、いったいどこから?」
「私、あなたに渡したいものがあるの」
涼子が手に持っていたのは、ネクタイピンだった。
「あの日、これを買いに行って車に跳ねられてしまったの、やっと願いが叶ったわ、これで安心してあの世にいける」
「涼子、逝かないでくれ!ずっと俺のそばにいてくれ!」
「それはできないの、私はもう、この世界にはいることはできないの、さようなら!体に気をつけてね」
「涼子、ありがとう!これ、大切に使うからね」
涼子は、静かに消えていった。風鈴がチリンと鳴り響いた。
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