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「…… あ」
我ながら間抜けな声だったと思う。それを突き飛ばしたわたしは、右手にその余韻を感じながら、映画のシーンが切り替わる様に次の瞬間に死んでいた。
上から眺める人間というのは面白いものだ。わたしが生きていた頃とは違って、表情はよく分からないのだけど、頭の動きやちょっとした手の仕草なんかでどんなことを言っているのか分かる気がする。
もっとも、下に居る人たちの声は聞こえない。ただ姿が見えるだけだ。わたしはきっと天井のあたりにでも浮かんでいるのだろう。そんな馬鹿な、なんて言われても、実際見えているのだから仕方がない。だって、真下で布団に寝かされているわたしの顔に、見覚えありまくりのきったないシミがはっきりと見えているのだから。
「女子高生なんだから顔のシミぐらい消してこいよ」
と裕太は言っていた。消すってそんな無茶な、と口にするのも面倒くさかったので、わたしは真顔で裕太の頭を思いっきりはたいたのだった。あの日は暑いのに湿気の少ない日で、教室に裕太の笑い声がいつもよりも大きく響いた気がした。
その日の放課後に、わたしは死んだ。
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