【三】

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【三】

きのうはわたしの通夜だったらしく、割と大勢の親戚や友達がわたしの部屋を訪れた。大好きだった伯父さんが子供のように泣いていた。一番仲良しのなっちゃんは、泣きすぎて余計にブスだった。担任の先生は、ずっと真顔だけど、両目の向こうで考えていることが現実に溢れてきそうな表情だった。みんなどうもありがとう、わたしみたいなやつにそんな顔してくれるなんて。  担任の先生がママとパパに恭しいお辞儀をして部屋を出るのと同時に、裕太が入って来た。ママの顔を見るなり、「オアアウ」という発音の言葉を発したようだった。「おばさん」と言ったのだろう。通夜に訪れる人たちの口元を見ているうちに、わたしはなんとなく何を言ったのか少しだけ分かるようになっていた。  うちのママに向かっておばさん、とは失礼な。まあでも許したげる、一応幼馴染なんだからね。ちっちゃい頃にぼろっぼろの服を着てわたしと一緒に走り回っていた裕太がきちんとした背広を着ているのを見て、わたしは笑ってしまったのだった。  翌日、わたしは火葬場に居た。もちろんわたしの葬式だ。死んでから分かったのは、眠るというのは不思議な行為だということだ。寝ている間の意識は自分では認識していないのに、翌朝目が覚めたらきちんときのうの続きの自分が「あーよく寝た」なんて言うのだから。眠くなんかなるはずもなく、わたしはひたすら自分の部屋でうだうだしながら夜を明かしたのだった。
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