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悪寒
伯母が嬉しそうに相手の釣り書きを見せる。
33歳。公務員。転勤なし。長男。
眼鏡をかけた、面長の男性が精一杯口角を上げて笑顔を作っている。
ちょっと上目遣いだ。真面目そう。大柄。
背は、伊織より少し低いくらいか。
よくもまあこの私にこんなご立派な男を探し出してきたものだ。
こんな人がどうして今まで残っていたのか不思議だけれど。
「ね、会ってみない?先様もね、大卒だから、
やっぱり大卒のお嫁さんがいいって、おっしゃってるの。
あなたぴったりよぉ!」
伯母は、顔をしかめて男の写真を眺める私を
なんとかその気にさせようと懸命だ。
それもそのはずで、
考えてみて、と言う割には大安吉日にホテルでの見合いが
セッティングされていた。
「伯母さん、突然言われたって、
シフトは簡単にずらせるものじゃないの。
それにそんな所に出かけるようなご立派なお召し物、
私持ってないわよ。」
伯母はにっこり笑って言った。
「大丈夫よ、着るものなら娘の振袖を貸してあげるから。
ゆりちゃん胸が大きいからタオル巻かなくちゃ。」
やや興奮気味に伯母が帰ったあと、気弱な母が心配そうに言う。
「ゆり子、ねえさんの顔を立てて、会ってあげてくれない?
ほら、私いつもお世話になってるし…」
親一人子一人の私達。母に言われると弱い。
「うん…」
母娘困惑気味に、気の早い伯母がハンガーに掛けて行った
あでやかすぎる晴れ着を見つめるしかなかった。
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