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「妹の和恵だ。
さあ、上がってくれ。」
「山元和恵です。
兄が怪我を負わせてしまい、申し訳ございません。
自分の家だと思ってくつろいで下さいね。」
松葉づえを付きながら、招かれるままに家の中に入る。
古いけど、手入れの行き届いた落ち着く雰囲気が漂っていた。
居間のソファに座り、一息つく。
「明日から会社に行くんだろう?
和恵がアシスタントで一緒に行くから。」
「はぁ?」
会社にこの娘も行くって、どういう事だ?
「お前のアシスタントとして雇ってもらったんだよ。」
「雇ってって、会社にか?
いや、それ、無理だろう?
会社にも、彼女にも迷惑をかける訳にはいかない。」
「うん、でも大丈夫なんだ。
和恵はフリーターだったから、仕事を探していたし、社長は和恵を働かせたかったからね。」
「社長が働かせたかった?
どういう事だ?」
「う~ん、実は社長、俺たちの母親の弟なんだよな。
だからフリーターやる位なら会社で働けって前から言われていたんだよ。」
「はぁ?!
え、じゃ、お前、次期社長候補とかあるの?」
「いや、それは無い。
社長の息子が二人もいるよ。
今、他の会社で修行中だ。
俺たちはただ、親戚ってだけで仕事に影響は無しだな。」
この山元は中学、高校と同級生で友人だった男だ。
大学は別になったが、就職してみれば奴がいて、偶然に驚いたものだった。
だのに、うちの会社の親族だなんて一度も聞いたことがなかった。
考えてみれば、プライベートな事は話さなかったので、友人だが、お互いの事は何も知らないのかも知れない。
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