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二人きりの夜
『悪い、急な出張でどうしても帰れない!』
山元から連絡があった時はもう夜の九時で、和恵さんと二人で食事も済ませ、風呂もいただいた後だった。
和恵さんにも同様の連絡があったらしく、ちょっと眉をひそめていたが、仕事じゃ仕様がないわね、と呟いた。
「あー、俺、今日は向こうに泊まるわ。」
「まだ足、不自由じゃないの。
変な気を使わないでここに居て下さい。
大槻さんのアパート、エレベーターも無くて二階なんでしょう?
雨も降ってきたし、帰るのは無茶です。
階段でも踏み外したら命にかかわりますよ。」
「スミマセン。」
和恵さんを怒らすと怖そうだ。
山元が恐れるのが分かる気がした。
「分かってくれたなら良いです。
ちょっと早いですけど、寝ますか?
私はお風呂に行ってきますね。
おやすみなさい。」
「はい、おやすみなさい。」
俺の使う部屋は和恵さんの部屋からも、風呂からも遠かったが、なんだか気持ちがモヤモヤした。
ひとつ屋根の下、妙齢の女性と二人きりの夜。
まあ、向こうは何も思ってはいないようだが。
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