【00】プロローグ

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【00】プロローグ

 歴史を感じさせる豪華なシャンデリアの光は消されていた。  照明を灯さなくても、窓枠に美しい彫刻が施された大きなガラスから射し込んだ月光が磨き抜かれた大理石の白い床に反射し、広い室内でありながらも充分な明るさがあるからだ。  そんな非日常的な豪邸の一室でスーツ姿の男性が二人、カウンターに空いたグラスを置いた後、そのまま会話を楽しんでいた。  それぞれ着用しているスーツは、上質な生地を使用したオーダーメイドであると見た瞬間に分かるほど、対照的な互いの体のラインを実に美しく見せている。  着る人間を選ぶ暗めのワインレッドのスリーピース・スーツを優雅に着こなしている体格の良い壮年の男性が、低く響く心地の良い声で、 「俺も貴方と出会うまでは、新しい大臣は総理大臣が任命していると思っていましたけどね」  と、年下の話し相手にニタリと笑いかけた。  この男性のあご髭は綺麗に整えられており、服の上からでも肉厚な筋肉のボリュームを感じさせる全身に、40歳という年齢にふさわしい成熟した大人の色気を(まと)わせている。 「やめてください、私は一介のアドバイザーにすぎない。例えば『この議員はお茶の間に顔が知られていても、失言が多く状況判断も甘い。大臣としてはどうでしょうね』と、総理と世間話をしたところで、最終的に任命するかしないか決断するのは私ではありません」
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