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そう苦笑いした若い男性は、細いストライプが入ったスリムな印象を与える黒スーツを着用していた。
涼し気な切れ長の眼差しとスッと通った鼻筋、雅な気品を感じさせる物腰や肌の白さが、サラリとした清潔感のある黒髪とよく合っている。
するとあご髭の男性が、それは心外という風にわざと両手を広げてみせた。
「そのようなご謙遜を。『影の総理』とも畏怖される南賀淵一族の当主の一言が、この国の政治にどれだけ影響力を持っているかはご存じでしょう?」
「いえいえ、確かに私の父の代まではそうだったかも知れませんが。その父の急逝によって、長男の私が成り行きで跡を継いだだけの話です。私自身には影響力なんてありませんよ」
と、クスリと笑ったのは、戦後から近年に至るまで社会の裏側から政界に大きな影響を与え続けてきたと言われる南賀淵一族の現在の当主、27歳の一成である。
「この家に生まれた以上、覚悟はしていましたが……まさかこんなに早く私の番がくるとは思いませんでした」
かつて一成の曽祖父は、借金をして小さな海運会社を立ちあげると、生まれついての商才を有言実行の行動力で最大限に活かし、一代で大きな財を成した実業家であった。
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