【00】プロローグ

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 その気骨は一成(かずなり)の祖父、そして父にも受け継がれ、時代と共に運送業、不動産業、IT事業などあらゆる分野に進出し、数々の成功を収めていった。  現在、この国において莫大な財力と社会的地位、そして影響力をもつ存在の一つとして「南賀淵(みなみがふち)」の名は、世界中の経済界に(とどろ)いている。  同時に南賀淵の人間たちが身に付けた、第一線で鍛え抜かれた経験に基づく決断力や、数えきれない現場や人間と真剣に関わることで(つちか)われた本質を見抜く目、わずかな失敗も許されないコミュニケーション技術のレベルは、一般的な生活を送っている者とは別次元であると言っても過言ではないだろう。  その結果、一族にこっそりと助言を求める官僚は後を絶たず、気付けば「南賀淵の当主は裏から国を動かしている人物、影の総理だ」と尊敬され、恐れられる存在になっていたのである。 「……ただひたすら父の背を追いかけながら学んでいた私が、突如父を失い、人生で初めて自分の存在に迷いを生じさせた時、救ってくださったのはアザミさん、貴方でしたね」  当時を思い出しながら、一成がポツリと独り言のように呟いた。 「あの時の一成さんは、大切なご家族を失われて心身共にお疲れなご様子でした。放っておけなくて思わず……出過ぎた真似をしてしまったのではないかと今では反省しております」  と、アザミと呼ばれた男は、頭を下げた。
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