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すると一成は、やや戸惑った様子で、
「出過ぎただなんて、そんなことおっしゃらないでください!今夜貴方に来ていただいたのは、我がグループに大打撃をあたえるところだった狡猾な産業スパイを、見事に逮捕へと導いてくださった御礼を直接伝えたかっただけではありません」
と、両腕を伸ばし、アザミを包み込むように優しく抱き寄せると唇を重ねた。
長い口づけが終わると、一成と顔を近付け合ったままのアザミが濡れた唇を動かした。
「ビジネスの一環としてならお付き合いは出来ますが、もしもプライベートでの関係をお望みでしたら……大変申し訳ありませんが」
「私では、貴方を満たせませんか?」
「いえ、一成さん個人に対しての拒否ではありませんので、どうか誤解なさらないでください」
「……なるほど、すでに貴方の心を射止めた幸せな人物がおられるということですね?」
と、察しの良い一成が、少し寂し気な口調でアザミの耳元に問いかける。
「はい。ただ、幸せなのは俺の方です。相手も幸せと思ってくれているのなら良いのですが」
そんなアザミの答えに、一瞬、一成の体がこわばり抱き締める腕に力が入った。
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