prorogue

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「私、私何もできないんだよ!」  女は地面に放り出された自身の脚を思い切り叩いた。何度も何度も何度も。明らかに赤くなった肌は、しかし何の痛みも伝えてくれなかった。  今まさに目の前で友達が突如現れた怪物に食べられそうになっている。それなのに体を動かすこともできなくて、ただ泣きわめくしかない。ここがゲームの世界ならなんでもできるんじゃないのか。お金を出せば今すぐ足が動くスキルを身に付けさせてほしい。そう願って無理矢理脚を腕で引っ張って動かそうとしても、やはり動くことはなかった。「お金があればなんでもできる。ここはそう、マネーダンジョン」ーーあの言葉は嘘だった。  怪物の口があり得ないほど大きく開かれた。禍々(まがまが)しいその空洞は気を失って倒れた仲間を宇宙空間のどこかへ吸い込もうとしているかのように無限の黒を塗りつぶしていた。 「ダメ! やめて、お願い!」  そんな悲痛な叫びも空しく、言葉の通わない化物は口を開けたまま迫る。 「来ないで!」  化物の身体が完璧とも思える白く細長いその脚に触れる。 「やめてって!」  バキッバキッと関節が外れるような音を発てて、化物の口がなお大きく開かれる。 「お願いだから!!」  化物の暗闇のなかに、夢にまで出てきた天使のようなその顔が吸い込まれていく。 「ダメェェェェェェ!!!!」  そのとき。女が叫んだ拍子に地面へと転がった情報端末にメッセージが届いた。 『緊急スキル:クラスチェンジミニッツを発動しますか?』
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