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第一章 寒苦鳥
先導者の保持する法を民は尊び、高める手助けをせよ、というのが、荒地に敷かれたしごく単純な掟で、術のほどこされた呪いだった。しかし人の考え方は千差万別、アーネストと子守のつめようもない意識の差は、呪いをかけた帝がお隠れになったあとも、広がり続ける一方だ。
明け方の空気は私たちの歩みを邪魔もせず、窘めもせず、迎え入れもせず、ただ周囲の様子を明らかにして、自分がいかに遠くまで来たのかを報せてくれた。砂利と、雑草と、蔦に覆われた瓦礫の少々ある荒地。目前に広がる景色は、自分の見てきた豊かな森と、整った屋根の連なるものとは似ても似つかない。存在だけは知っていたけれど、私にとってここは、自分とは関係のない獣道だった。
「疲れた? なんなら少し休もうか」
目の前を歩く男の、結んだ長い金髪が揺れる。
「うん、ちょっとだけ。ごめんね」
「構わないよ」
男は辺りを見回しつつ、腰に下げた小袋から火打石を取り出した。
ほどなくして、比較的たいらな瓦礫を見つけ、腰を落ち着けることができた。
「どうだい、三日間、荒地を歩いてみた感想は」
「知ってはいたけれど、ほんとに何もないのね、ここ」
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