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「はは、そうだな。君のいた街と比べると、なんにもない」
いまだ得体の知れない眼前の男は、私とそう変わらない歳のように見える。身の丈は青年の平均よりやや低め、顔立ちはまだあどけなさを残していた。しかしその鳶色の目は、私よりもふたまわり上なのだとたしかに感じさせるほど、周囲の荒れた景色に揺れない。ここまでの道程は、この男からすればなんてことない距離なのだろう。それくらい、私と彼は違う。
「残してきた子守の人たちが心配か?」
やや見当はずれな質問に、注意を削がれた。
「いいえ。私がいなくたって、あの集落はまわるもの」
いま、みんながどうしているかは分からない。思いを巡らせたところで、私にはどうしようもないことだ。
「それより、帝がどこにいるのか、ほんとに心当たりもないの?」
「ああ、全くない。少なくとも、俺が旅してまわった子守の村々にはいない」
「……」
「そう残念がるなよ。大丈夫、道筋はなんとなくだけれど決めているから」
男は快活に笑う。どうにもゆるい。
「帝を探す気、ちゃんとある?」
「あるさ。何とかしないと、野奴は増える一方だろ? するとほら、子守の集落も、俺の命も危ないし」
「なら良いけど」
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