第1章

4/4
前へ
/4ページ
次へ
 話終え、煙を吐き出す。鬱屈としたこの胸のもやもやも、煙草の煙と一緒に吐き出せないかと、男は思う。 「本当にいたたまれない事件ですね……」  部下は上司の表情を見て、同じように顔をしかめる。喫煙所のガラス越しに見える、精神科の待合室の方へと、視線を向けた。  待合室には大きなテレビが壁に取り付けられている。かなりの大音量の為か、喫煙所内にも、聞き取りやすいニュースキャスターの声が耳に入ってくる。何度も同じ報道が流され、チャンネルを変えても、どのテレビ局も同じ内容を繰り返し報道し、有名なコメンテーター等を間に入れ、議論する番組もあった。  ニュースキャスターが原稿を読み上げる。読み上げる女性の無表情が、事件の残酷さを引き立てていく。 「先週、B市のゲームセンター内で、子供が首を絞められ、殺害される事件が発生しました。更に、容疑者は子供を殺害後、すぐにクレーンゲームの続きを行っていたとの事。容疑者のすぐ側で、死亡している子供を母親が見つけ、通報。容疑者はその場で逮捕されました」 「逮捕後、容疑者は一貫して、ただぬいぐるみが欲しかったと主張。警察は、専門家による精神鑑定の必要があると話を続けています。遺族からは、死刑を求める声が挙げられています……」 ニュースキャスターの報道を聞き、二人の表情は険しくなる。煙草を吸う本数も増え続ける。溜息と同時に煙を吐き出した。部下も珍しく、煙草を吸い続けている。上司の前では、すぐに出ていく者だったが。  上司である男に、再度尋ねる。眼は虚ろであり、今回の事件の異常性についていけてない様子が伺える。 「何なんでしょうか。この事件、奴はどうしてあんなに、熱心にゲームセンターに通ってたんですかね……」 部下が沈痛な面持ちで上司に尋ねる。男は、すでに三本目に差し掛かった煙草に、火を点けながら答える。  「さあな。そもそも、現場となったUFOキャッチャーは、すでに景品が取られていて、中に何も置かれていない空の状態だったそうだ。空のまま放置していた、ゲームセンターもどうかと思うが、奴の眼には、何が見えてたんだろうな」
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加