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★コウ
目覚めは良くなかった。
慣れない柔らかすぎるベッド。温かい布団。快晴の空から窓をすり抜けてくる日光。そのどれもが寝るときには想定していなかったもの。だから、目覚めは良くなかった。
「ん……」
まぶしい朝日から手で目を守りながら身体を起こす。柔らかいベッドで寝ていたせいか、身体が少しだるい。昨日はベッドで寝た記憶は無いのだが、なぜかベッドの上で目を覚ました。
周囲を見渡す。カーテンが開いた窓、隙間無く本が収まっている本棚、何かが乗っているデスク。埃やゴミなどは見当たらない。清潔な部屋だということはわかるが、それ以上に重要なことがわからない。
「ここは、どこだ?」
清潔さを感じるこの部屋に見覚えはない。起きたら見知らぬ場所にいたのだ。
「いったい、何がどうなっているんだ?」
ベッドから飛び起きる。即座に警戒態勢に入り、周囲の様子をうかがう。部屋の中には誰もいない。部屋の中や自分の周囲も『くまなく探索した』が『全く何も無い』。
「なんだ? どういうことだ?」
部屋の中に人がいないのはひとまず目視でわかった。しかしいるかもしれないから探索した。しかし反応は無い。壁も、デスクも、今自分が起きたベッドさえも、だ。探索した結果はそれら全てが『存在しない』ことなる。
「探索魔法の効果が無いのか? 魔法を封じられた?」
この世の中に存在するありとあらゆる物には魔力が宿っている。それらは探索魔法で察知することが可能なのは常識だ。自分を中心に、どの方向にどれだけ離れた場所に何があるのか、瞬時に察知できる。戦いの時など、目視だけに頼っていてはいけない。探索魔法の優劣が勝敗を分けることは少なくないのだから。
即座に魔法を使用してみる。自分を中心に冷気を展開。即座に部屋の温度が一気に低下した。春の暖かい日差しを受けながらも、肌は真冬の温度を感じている。
「魔法……使えるよな?」
魔法が使えなくなったわけではない。それはわかった。なら探索魔法も通常通り使用できていると考えるのが普通だ。
「どうなってんだ?」
部屋の中を再度見渡す。何か手がかりになりそうな物はないか、そうやって部屋のあちこちに視線を向けていると、壁の上の方にある白い大きな箱に目がとまった。
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