「友だち」

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3月、高校を卒業しなんとか希望する大学へ合格することができた俺は、大学から地下鉄で3駅の街に居を構えることにした。 不動産屋が「まだネットにも出してない物件なんですけど」と前置きして紹介してきた物件は、周辺の相場より1万円程度安かった。 駅から徒歩5分、コンビニ、スーパー徒歩1分、バス・トイレ別、オートロック付き、鉄筋コンクリート造で築5年。 条件としては申し分なく、むしろ学生には贅沢すぎるくらいだが、その安さの理由が気になる。 理由を聞いてみると、案の定の答えが返ってきた。 「実は…この部屋で以前…」 つまり、事故物件ということだ。 行方不明になっていた女子大生が白骨死体が見つかったというニュースはなんとなく憶えている。 まさかその現場を紹介されるとは思わなかったが、クリーニングをしっかりしている、ということを確認した上で内見に行き、賃貸契約を済ませた。 人が死んだ部屋だから霊が出る、なんてことは信じない。 人はどこでも死ぬ。 アパートでも病院でも、路上でも、駅でも。 人がその場所で死んだというだけで化けて出るのなら、世界は霊で溢れている。 この街だって戦時中は空襲でかなりの死者が出ている。が、霊を見たことなど一度もない。 このアパートに住んで1ヶ月以上経つが、それは変わらない。 TVをぼんやり眺める。 株価が上がったの下がったの、政治家の汚職、大企業の顧客情報流出と、いつもと代わり映えのないニュース。 新入生オリエンテーションや新歓コンパも落ち着いた平和な午後。 ふと、スマホを見るとトークアプリに1件の通知が来ていた。 友だち申請。 女性の名前のようだが、申請元のアカウント名に憶えはない。 この間の新歓コンパで知り合った人か? 申請許可の前に一応聞いてみる。 『失礼ですが、どちら様でしょうか?』 1分とかからずに返信が来る。 「私、その部屋で殺されたんです」
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