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「……嬢ちゃんは魔女なのか?」
「…………」
何も答えることなく、少女は来た道を戻る。陽は完全に沈み、足元もランタンの明かりだけでは心もとない。しかし山賊が近くにいるところでは安眠できそうにないため、もう少しだけ歩き進めることにした。
「嬢ちゃん!」
しばらくすると馬車の音と共に、先ほどの商人が追いかけてきた。
男は四十半ばくらいで白髪混じり。山越えには似合わないきちんとした格好をしている。
「嬢ちゃん、さっきはありがとな。おかげで商品が無事だよ」
「無事を喜ぶなら自分が生きていることを喜んだら?」
「それもそうだな、がはは」
大きな口を開けて豪快に笑う。
「俺ぁ商人だからよ。どうしても商品が第一になっちまうんだ。ところで嬢ちゃんは東の町まで行くのか?」
「そうだけど」
「俺もなんだよ。町まで同行させてくれやしないか?」
「……」
「そんな疑うような目で見るなよ。娘と同じくらいの子に手なんて出さねぇよ。それに手を出したところで魔女になんて勝てねーっつの」
「私があなたといるメリットは?」
「どうせ野宿でもするんだろ? 馬車を使っていいぜ。あと美味い鹿肉があるが?」
「食べる」
「契約成立だな」
馬車に乗せてもらい、二時間ほど山道を移動して落ち着く場所を決めた。移動中ずっと商人――アインスは喋り続けていた。
「火とかって簡単に起こせたりするのか?」
返事の代わりに、火鉱石を使って枝に火をつける。
「便利な石だな。見た目はその辺の石ころと変わらないように見えるんだが」
まじまじと顔を近づけてくるので、少し後ろに下がる、
「俺にも使えたり、」
「しない。魔力を持ってない人間が触っても、確かにただの石ころだよ」
「残念だな。じゃあ魔女や魔導師に売れたりとかしないのか?」
「しないね。わりとどこにでも落ちているし。それに魔女や魔導師相手に商売するのはやめた方がいいよ。死にたくないならね」
「そんな魔女に救われちまったな」
「この後食べるかもよ?」
「俺なんかより鹿肉の方が美味いぜ」
「……そうね」
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