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切なくて、夏
「七恵、勉強がんばってるんやね」
「美香子、当たり前やん。うちは、勉強するのん、嫌いやないんや。どっちかというと、好きなんえ。ほいでな、うちは、行きたい大学があるし」
「そうなんや」
「大学行って、いっぱい学んで、将来は、学者になるんや。それが夢や」
「うちとは、世界観が違うなあ」
「世界観、か。そやな。でも、違っててええやん。美香子は、美香子。うちはうち。それぞれ個性があるんやし」
「ずっと、一緒にいたかったな」
「何、いうてんのん?」
「大学も、一緒のところに行きたかったな、と」
「美香子、うちまだ合格したんとちゃうよ。美香子もそれやったら、今から頑張ったらええやん。な、一緒に勉強しよ」七恵は無邪気に美香子を誘った。
一緒に勉強したら、そばに居られるかもしれない。だが、美香子は知っていた。それは束の間の幻。心が美香子の望むような形で一緒になるわけではないだろうと。
本当は、言いたかった。のどの奥から声をしぼって叫びたいほどに。
「わたしだけの彼女になって」
もうすぐ、夏休みになる。高2の夏は、儚い夢を見続けるのだろうか。それでは、空しすぎる。
美香子は、飛行機雲が空高く、消えゆくように心が静まることを願うばかりだった。
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