第1章 Ⅰ-2

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「お前のような負抜けた出来損ないに用は無い。出て行け」  父親の殴りつけるような一言で家を追い出された。  熾原家は代々、静止衛星軌道に設置された蝦夷との国境(くにざかい)の守護を担ってきた。クニの代表会議が誕生する前からの事だから、その活動は誰に言われたのでもない、星を守る為の自主的な活動だった。辺境の事だから、世のボーダーラインを生きているような無法な輩や、何より他国からのちょっかいも少なくない。そして、辺境にはクニの法が行き渡らない。そういった輩を追っ払ってきた。相手を傷付けないように、が方針だったが、それでも荒事だった事に変りが無かった。  勁二郎は物心ついた時から、辺境に現れる有象無象と戦う事を運命付けられていた。守護とは言っても、熾原家が自ら買って出た謂わばボランティアであり、僅かの補助金と周囲からの助けでつましい日々を堅持してきたに過ぎない。  家族は皆、この仕事に誇りを持っている。勁二郎自身も大事な仕事だろうとは思う。しかし、自分じゃなくても良いだろう、と勁二郎は叱られる度に思ったものだった。何度か話し合いで解決しようとしてみた。だが、言葉が通じないか、通じているはずなのに聞く耳を持たない者が大半だった。  僻地での何の娯楽も無い生活よりも、悪意を向けてくる相手や剥き出しの闘争心に嫌気が差した勁二郎は、何かと伝統や誇りを持ち出す父親と年々衝突する事が増えていった。結果的には父親に追い出される形になったが、勁二郎は追い出されてホッとしていた。これで、誰とも争わずに生きていける道を探す事が出来る。  重要な仕事かもしれないが、自分でなくてはならない生業には、勁二郎には思えなかった。  超典種が世界樹を辿って今の星に流れ着いてきてから、早二世紀。  これからはもう、拳と魔法で戦ったりする時代じゃない。何か楽しい仕事を探そう。  トランク片手に降り立った飛行場は、ピクニックに来てみたいような所だった。滑走路というよりは広々とした芝生がどこまでも続いていて、どこからどこまでが滑走路なのか勁二郎には区別がつかなかった。
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