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ともかくも、一般常識さえ少々偏りがあった勁二郎には、飛行学校の座学も有り難かった。
そんなある日だった。
同じ学校に通う仲間からある噂を耳にした。
ある上り調子だったエアレーサーのチームが解散、そのチームのエンジンがパートナーを見付けられなくて困っている、という。それだけならの事なら勁二郎も適当に聞き流していただろう。だが、その選手を噂する言葉には悪意が込められていた。その選手に何か忌まわしい過去があるらしく、侮蔑的である同時に、何かを忌避するような雰囲気が纏わり付いていた。
その日は、手違いで別の場所に運んでしまった生鮮品を、本来の宛先に運ぶ任に当っていた。運送先を間違ったのは勁二郎ではなかったが、自ら買って出たのだ。
こう日に限って蒸し暑く、朝から雨が続いていた。いつでも土砂降りに変わりそうな気配の下、勁二郎はいつも以上に飛ばしていた。
ぬかるんだ泥道に足を取られて思うように進まず、気ばかりが逸った。見えない獣と競い合っている気がした。焦躁が勁二郎の闘争心を膨れ上がらせ、四肢に力を漲らせた。
雲天に黒い点がぽつりと現れたかと思うと、急激に大きくなっていき、勁二郎に並んだ。
「杉澤さん……! だっけ」
「アタリ! 覚えててくれたんだ。ごめん! あたし、忘れちゃった」
「勁二郎だよ」
李乃は笑って、「あたしも李乃で良いよ」
李乃は器用に速度を落として併走していたが、雨で速度を落としている勁二郎の足に合わせていられなくなり、地面に足を付けた。――ふわっと機首を上げて若干を機体を浮かすと共にブレーキをかけ、その勢いのまま機体を頭上に持ち上げる。まだ体は時速百数十kmで前に進もうとしている。足が地面に届くと、そのまま勁二郎に合わせて走った。
勁二郎は足を止めた。
「乗せてあげようか?」
まるで、勁二郎の急ぐ理由を知っているみたいだった。
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