第1章 Ⅰ-1

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 疑問は尽きないものの、勁二郎は言われるままに足下を覗き込んだ。最近のガレー船の動力にも使われているペダルがそこにあった。前に座る彼女も、それを凄い勢いで漕いでいる。これで、機体の鼻先でぶんぶん回っている大きなプロペラで推進しているわけだ。田舎者の勁二郎でも、プロペラ推進の船を見た事があった。一度だけだが。これはその最新式のガレー船と同じ理屈で、水の代わりに大気を掻き進む空の船なのだ。勁二郎はそう理解した。  艶やかな流線型のボディ。風防も無い開放型コクピットは後側は開けており、そのまま細く伸びたボディが尾翼へと繋がっている。コクピット内前後に細いサドルが並び、後席は1/3ほどが機体の外に出ている。後側のサドルの両側下寄りに丸みを帯びた翼が横に伸びており、風を孕んで補助翼を震わせていた。  彼女が機体の中に身を隠すようにして姿勢を低くした。彼女の頭越しに視界が目まぐるしく移り変わる。急降下を始めた機体は、トランクを追って落ちるより早く飛んだ。トランクが目前に迫る。が、速度が出すぎてあっという間に追い越してしまった。勁二郎も手を伸ばして捕まえようとしたが届かなかった。機体は勁二郎の動きに敏感に反応し、容易く姿勢を崩した。超典種二人で体重は二百kgを超える。乗っている超典種二人分の空気抵抗と総重量に占める割合が大きい為に、機体の姿勢は搭乗者の影響を敏感に受ける。  機体を捻って旋回し、高度を上げると同時に速度を落とす。トランクを中心に回り込み、近付いていく。
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