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「出来るだけ姿勢低くしてて」
彼女は後ろに回した片手で勁二郎の頭を押さえ込んだ。徐々に近付いていく。
「よし」
彼女が靴を脱ぐ。勁二郎が止める間もなく、彼女がコクピットから躍り出た。機体が左右に揺れる。勁二郎は慌てて左右のグリップを握った。手の中でグリップが激しく暴れた。
「生きてる!」
彼女が顔を背けて盛大に吹き出した。機体がふらふらと千鳥足でトランクから離れていった。勁二郎は咄嗟に振り返る。機体もそれに引っ張られて同じ方向に傾いた。
「グリップをしっかり掴んで。壊さない程度の力で。主導権はあなたにあるんだよ」
言われるまま強く握り、前後左右に暴れるグリップを押さえ込む。すると、飛行機の鼻先もピタリと固定された。勁二郎は目を奪われた。
唐突に彼女が体を密着させてきた。勁二郎の懐に潜り込み、勁二郎の両手の上からグリップを操作した。再び機体はトランクの周囲を巡る螺旋軌道に入る。
「この位置で固定してて」
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