第1章 Ⅰ-1

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 笑うのを頑張ってこらえながら彼女は答えた。 「ほんとに初めてなんだ。凄いね。ちゃんと飛べてる。素敵」 「内地も初めてなんだ。ここで何か仕事を見付けようと思って」 「あたし、杉澤李乃」 「熾原勁二郎だ」 「今までは何をしていたの?」 「外地の国境間近の小島にいた」 「そう。――じゃあ、私のパートナーにならない?」 「何の?」 「これ、二人乗り」  また、彼女はクスリと笑った。 「見た事も聞いた事も無かった奴で良いのか? 乗って何をするかも知らないのに」 「何だと思うー?」 「うーん」 「何となく雰囲気で分らない?」 「郵便配達? ぐらいしか……」  彼女が吹き出した。 「そんな事言われたの、初めて。レースだよ、レース。決まったコースを飛んで速さを競い合う」 「それは仕事なのか?」 「ちょっとムカッと来た」 「ごめん。……レースか」 「あ、興味ある? 私達超典種の血が騒ぐよね」 「そうかもな。――でも、俺は嫌いだ」 「え?」 「争い事は嫌いだ。例え殺し合うようなものでなくても、俺はやらない」 「闘争心と一緒に好奇心も無くしちゃったの?」  李乃の一言が勁二郎の胸に刺さった。  勁二郎を乗せた飛行機は芝生の飛行場に降り立った。勁二郎にとって初めて踏み締める大地は、これからも水を含んだ芝草の香りと共に思い出される事になる。硬い土の上に降りても、まだ足の下が揺れている気がした。 「じゃあ、連絡待ってる。わたし、新神恵内(しんかもえない)飛行場にいるから」 「行かないよ」 「出会いは大切にしなきゃ」  彼女はそう言い残して空に飛び立った。
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