僕は死ぬために生きている。

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僕には役目がある。 正式にはあったというべきだろう。 これは僕が死ぬ前の話だ。 僕は何者なのか、探していた。 僕に記憶がなかった。 いつの間にか生まれて、いつの間にかこの屋敷に連れてこられた。 お世話になっていた人の子供が庭で遊んでいて、思わず見ていたら子供が寄ってきた。 「お兄さん、お暇ですか?私と遊びませんか?」 「…何故?」 「何故ですか…、そうですね。いきなりお声をおかけしてすみませんでした」 「いや…それは構わない」 「そうですか、良かった」 子供は安堵の笑みを浮かべながら、僕に喋りかけてきた。 見た目は幼きその姿が何やら大人びた言葉の言いようだと僕は思った。 「良かった?」 「嫌がられても仕方ないとは思いましたが、ええ、私も何故だかわかりませんが、貴方が気になったので貴方に声をかけました。いけませんか?」 「別に…」 「改めまして、私はヒサトと言います。では、私と一緒に庭で紅茶でも飲みながら、本でも読みましょう」 「僕は…名はない。本とは?」 僕が首を傾げると子供は不思議そうな顔で僕を見ていた。 「これが本です。ご存知ないのですか?」 ヒサトは手に持っていた本というものをみせてくれた。 僕は本を見るのは初めてだった。 珍しそうにしていると、ヒサトが本を僕に見せるように紙を捲り始めた。 「紙をこうして同じ寸法で結って束ねたものを本と言います」 「巻物ではないのか?」 「巻物をご存知なら、巻物の内容を簡単に纏めたモノが本と考えていただいて良いですよ。未だ巻物も使われていますが、刷って持ち運ぶなら本のほうが良いのでしょう。今は技術の向上により本を使っているところが多いですよ」 「…それは知らなった」 関心していると、ヒサトは僕を見上げていた。 目には輝く星が無数にあり、僕は困惑した。 困惑する僕の服の裾を掴むと、ヒサトはぐいぐい引っ張り、僕をどこかへ連れて行こうとした。 「お、おいっ」 「わからないのでしたら、私が教えてあげます!さぁこちらへ!」 訳がわからないまま、僕はヒサトに引きづられるまま、本がいっぱいある部屋へ連行された。 ヒサトは僕の動揺をものともせず、にこやかに微笑んだ。 これが、ヒサトとの出会い。 出会って数ヶ月、ヒサトは僕を見つけると必ずどこかへ連れて行くようになっていた。 何があり、何がおこり、何をしたとか色々教えてくれる。
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