僕は死ぬために生きている。

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兄弟のように僕の弟ようになり、時に物を教える師となり、親となり。 ヒサトはコロコロと表情を変えて、僕に接した。 今までそんな奇特な人物にあったことのない僕だったが、次第にそれが愛おしいと思えてきたのだから仕方がない。 それがいつまでも続くのだと僕は誤解していた。 ー数年後。 僕はヒサトの父に呼び出された。 「明日、其方、陰の者を殺す。これは決定事項である」 国の外では戦乱が続いていた。 正確にいうのなら、屋敷だけは平穏無事なだけだった。 それも数年とは持たず、この国は負けた。 ヒサトの父は王である。 この国は特殊な国であるのが幸いした。 王がなければ、民も死ぬ。 王の祈りは民の祈り。 言わば、他国にとって王を殺すということは民を道連れにすることと同意義をもっていた。 ただでさえ、戦争に人を殺して更に国を増やしても民がいなければ、それは最早荒れ果てた土地だけを手に入れる行為に等しかった。 土地だけ手に入れてもその隣の国が新たな戦いを起こすだけと考えた国々は王を残す事を選択した。 目の前の王は憔悴しきっていた。 戦を起こしたのは王ではないからだと予め王の側近から聞かされていた。 でも、問わずにはいられないことが僕にはあった。 「一つ、お尋ねしたきことがございます」 「なんだ?」 眉をぴくりとあげて、睨んできたが僕は無視した。 「陰とはなんでしょうか?それだけはお聞きしたく存じます」 「ヒサトのやつめ…、余計な知恵を入れおって…」 「ヒサト様は慈悲深いお方。陰の者とは知らず、お世話をしていたと思われます」 「わかっておる。知っているのは私と私の周りだけなのだからな」 王ははぁとため息をつくと、ギロリと僕を睨んだ。 先程よりもなお強い睨みに僕は俯いた。 「最後だ、教えてやろう。其方が死ぬ理由を…」 その理由は簡単なものでもあった。 そして深いものでもあった。 「何千年とあるこの国は一つの理がある。 故に続いてきたとも言える。 民とともにあるのはその国の始まりを綴ったものに沿うものだ。 国の王は『天』として、 民を『地』と配す。 国には創生、導くものを『陽」と呼ぶ。 そして、破壊、再生を促すものを『陰』と呼ぶ。 『陽』と『陰』は交わらず、時を同じくしては出現しない。 だが、『陽』の者は『陰』の者を求めて現れる。 『陽』無くしては、この国は豊かにはならない。
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