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△序章▼
無限の闇。
何も見えず、何も聞こえず、何も感じない。
宏大無辺なる虚無の中を、波間に揺らぐ布切れのように漂っている。
上も下も、前後左右の別も無く。
自我の輪郭すらも曖昧に。
この思考を形成している俺は……いや私?
それとも僕なのか?
この意識が存在している理由は?
いやそもそも、本当に自分しか存在していないと何故言える。
もしかしたらここは虚無ではなく、逆に全てが溶け合った混沌なのかも知れない。
我と同じように、自我と外界との境を失った者達が、溶け合い混ざり合い重なり合って、ただここに在るだけ。
無為で、無駄で、無能である。
存在理由が不明ならば、存在価値も皆無となるのか?
我の……存在理由は……どこにある?
――問に対する答えは、何の前触れもなく【光】で示された。
真っ黒な世界に、一点だけ灯火でも浮かぶように。
その発光は徐々に強さを増していき、黒を白へと塗り替え始める。
白く、白く、白く……黒が塗り潰されていく。
いや、これは光が我に近づいているのか?
あるいは、我が吸い寄せられている?
不意に、曖昧だった感覚が働きだす。
あの光が見える方向が、上……らしい。
真上から、仰向けに横たわる我を引き上げている。
我は、どうやら個にして全であるようだ。
全に繋がる個、と言った方が適切か。
何故かそのような【繋がり】を感じる。
導く光が強くなるにつれて、行き着く先が見えてきた。
そこには、我と同じ形の――俺が居て。
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