△序章▼

1/1
前へ
/28ページ
次へ

△序章▼

 無限の闇。  何も見えず、何も聞こえず、何も感じない。  宏大無辺なる虚無の中を、波間に揺らぐ布切れのように漂っている。  上も下も、前後左右の別も無く。  自我の輪郭すらも曖昧に。  この思考を形成している俺は……いや私?  それとも僕なのか?  この意識が存在している理由は?  いやそもそも、本当に自分しか存在していないと何故言える。  もしかしたらここは虚無ではなく、逆に全てが溶け合った混沌なのかも知れない。  我と同じように、自我と外界との境を失った者達が、溶け合い混ざり合い重なり合って、ただここに在るだけ。  無為で、無駄で、無能である。  存在理由が不明ならば、存在価値も皆無となるのか?  我の……存在理由は……どこにある? ――問に対する答えは、何の前触れもなく【光】で示された。  真っ黒な世界に、一点だけ灯火でも浮かぶように。  その発光は徐々に強さを増していき、黒を白へと塗り替え始める。  白く、白く、白く……黒が塗り潰されていく。  いや、これは光が我に近づいているのか?  あるいは、我が吸い寄せられている?  不意に、曖昧だった感覚が働きだす。  あの光が見える方向が、上……らしい。  真上から、仰向けに横たわる我を引き上げている。  我は、どうやら個にして全であるようだ。  全に繋がる個、と言った方が適切か。  何故かそのような【繋がり】を感じる。  導く光が強くなるにつれて、行き着く先が見えてきた。  そこには、我と同じ形の――俺が居て。
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

63人が本棚に入れています
本棚に追加