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唐突に、しかめっ面の局長が入室する。
その言葉通り、今日の彼女はクロードのせいで機嫌が悪いらしかった。
「時を司る時葬官ともあろうものが、そんな体たらくでは......。聞くところによると、また例の画家から遺灰を回収できなかったそうですね?」
「いやいや、こういうのは意地と根気ですよ。何度も頭を垂れて、ご遺族の話を聞いて、それでようやく遺灰を預かることができる。あなたも時葬官時代はそうだったじゃありませんか」
「そんな思い出、とうに忘れましたよ」
「おや、それは悲しいねぇ」
普段とは違う砕けた口調で、局長に相槌を打つクロード。ふたりは時葬官時代に、いったいどんな関係だったのだろうか。
アリアスはふと、そんなことに思いを巡らせる。
「そうだ。局長もパラシオ氏の絵を観にいきませんか? たまには羽根を伸ばすのも......」
「結構です」
「そんな暇はない」と言わんばかりに、そそくさと退出する局長。
残されたクロードは、すっかり冷めきったコーヒーを寂しそうに啜る。
「相変わらずつれないねぇ。昔はああじゃなかったんだが」
「『昔は』? それはどういう......?」
「いや、なんでもないよ。うっかり口にしたら、後が怖いからね」
「確かに......」
鉄仮面のように微動だにしない彼女の顔が、鬼の形相へと変貌する様。アリアスはそれを想像し、思わず身震いした。
「しかし、惜しかったなぁ。彼女も付き添ってくれるなら、入場料も経費で落ちたかもしれないのに」
「絶対落ちませんよ......」
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