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「はっ!? 夢、か」
突然のノックの音で、悪夢から現実へと引き戻される。戸を叩くのは、聞き覚えのある声の男。
「ごめんください、パラシオさん。時葬局の者です。少しお話を伺えませんか?」
「ちっ。またか」
その青年はくしゃくしゃのくせ毛を掻きむしりながら、痩せた体を面倒臭そうに起こす。
彼が寝ていた床の上には、使い古された画材が無秩序に散乱していた。
そうして彼は玄関を乱暴に開け、開口一番にこう告げる。
「だから言ってるだろ。彼女の遺灰を渡す気なんて、さらさら無いって」
玄関の外で待っていたのは、時葬官のクロードとアリアス。いつものように、遺灰滞納者の元に直談判しに来ていた。
「まぁまぁ。すぐに返せとはいいませんから、せめてお話だけでも」
「そんな暇ないね。こっちは忙しいんだ。新作の〆切まであと3日しかないってのに、君らのせいで間に合わなかったらどうしてくれるんだ?」
「代わりにパトロンに土下座でもしてくれるのか? そいつはいい。ついでに違約金も払ってくれよ。君らの給料で払えるんならなぁ?」
「いやぁ、それはとても」
「遺灰の返納は義務です。拒否された場合は」
「僕はどうなったっていいさ。逆に聞くが、僕が返納を拒否したら、時葬官の君はどうなるんだい?」
「それは......困ります」
「ハッ、それはいいことを聞いた。なおさら返したくなくなったよ。それじゃ、二度と来るなよな」
「なっ、待ってください! 話はまだ!」
無慈悲にも、扉は固く閉ざされてしまう。
戸口に残されたふたりは、困り顔でただ立ち尽くすばかりだった。
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