第4話 砂の肖像

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 その後。一日の業務を終えたふたりは、コーヒーを片手に時葬局の事務室に腰かけていた。 「すみません、クロードさん。同行していただきながら、結局遺灰を回収できず」 「なに、こんなのいつものことじゃないか。私はこれを何十年も繰り返してるんだよ? いまさら屁でもないさ」 「それは、そうでしたね」 「それにしても、天才画家パラシオ・ゼクシス。透き通るような作風とは真逆の、気難しい青年だったね」 「彼のことをご存じなんですか?」 「もちろん。ドリクト中......いや、この国でいま最も注目されている画家だからね。逆に聞くが、君は知らなかったのかい?」 「あいにく、芸術には疎いもので」 「ははっ、そうかそうか。なら今度、美術館に行って彼の作品を鑑賞してみないかい?」 「パラシオさんの、作品をですか?」 「そう。作品には作り手の想いが表れるものさ。それが演劇であれ、音楽であれ、絵画であってもね。彼の人となりを知るには、それがてっとり早いんじゃないかな?」 「それになにより、絵画はいい。見ているだけで、時間を忘れさせてくれるからね。いい気分転換にもなるだろうさ」 「『時間を忘れる』、ですか。だから、今日の定時報告にも遅れてきたのですね」 「局長......」
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