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陽の当たらない、町外れの小さな病院。アリアスはそこに、ある人物を見舞いに来た。他でもない、先輩時葬官のクロードを。
「それでどうです、具合の方は」
「ハハ、おかげさまで。順調順調」
華やかなフルーツも花束もない、白一色の病室の中。見舞いに来たアリアスを、クロードが能天気そうに迎える。彼の両足は、ギプスと幾重にも巻かれた包帯で頑丈に固定されていた。
「まさか、あの時骨を……」
「そう気にしなさんな。ボロボロの老人の体に、ガタが来たってだけさ。なんせ、数十年ぶりの『実戦』だったからね」
「実戦」、自分の未熟さゆえに引き起こした、モノ・クロウスでの不慮の事故。その直後こそ気丈に振る舞っていたが、実の所、このような傷を負っていたのだ。自分を励ますために、敢えてそれを隠していたのだろうか。アリアスはそう訝しみ、改めてその責任の重さを噛みしめた。
「心残りと言えば」
「えっ?」
「あの晩に、もっと飲んでおくべきだったな」
「はあ……」
思いがけぬ一言に、思わず溜息をつくアリアス。呆れながらも、そんな彼の自然体な優しさを救われ、肩の力が抜けていくように思えた。
「で、どうなんだい。例の一家は」
一転して真剣なまなざしに戻るクロード。彼の耳にも、予め今回の件は届いていたようだ。
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