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ドリクトの居住区の中心に位置する駅で、二人は汽車に乗った。黒々とした煤にまみれた無骨な車体が灰色の蒸気を吐き、甲高い警笛を鳴らして駅舎を発つ。クロードはまるで子供のように、上気した眼で客席から変わりゆく外の景色を眺めていた。二人はそれぞれ二人掛けの客席に一人ずつ向き合うように座っている。
「いやあ、汽車なんて久しぶりだね」
「観光気分ですか」
「いいじゃない。移動中くらい、楽しまなきゃ」
いつもの事ではあるが、特に今日のアリアスはそんな気分とは程遠かった。モノ・クロウスに向かうのは、仕事のためでも、観光のためでも無かった。自分の過去と向き合うという、ごく個人的な目的のためだ。
「弁当、食べるかい?」
物思いに耽っていたアリアスに対し、突然クロードが呼びかける。車内販売の台車が近づいてきたのだ。
「いえ、結構です」
そっけなく即答する。クロードは悲し気に「そうか」と呟き、一人だけ握り飯の弁当と煎茶を注文した。

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