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「ごめんください」
アリアスは玄関をノックしながら、その部屋の外壁部分を見やる。表札には姓名も、部屋番号も刻まれていなかった。しかし彼にはこの部屋こそが目指すべき場所、遺族の住居である事は自明のように分かっていた。
「どうぞ、お入りください」
室内から、遺族と思しき男の穏やかな声が返ってくる。その言葉通りにドアノブをひねると、先程まで施錠されていた扉はすんなりと開いた。
「失礼します」
一部屋だけの、小さく質素な住居。その何もない正方形状の白い部屋に、先程の声の主、遺灰を抱えた遺族が立っていた。
彼は紺色の正装に身を包んだ、顔の無い男だった。
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