第4話 砂の肖像

3/5
前へ
/133ページ
次へ
「はっ!? 夢、か」    突然のノックの音で、悪夢から現実へと引き戻される。戸を叩くのは、聞き覚えのある声の男。 「ごめんください、パラシオさん。時葬局の者です。少しお話を伺えませんか?」 「ちっ。またか」  その青年はくしゃくしゃのくせ毛を掻きむしりながら、痩せた体を面倒臭そうに起こす。  彼が寝ていた床の上には、使い古された画材が無秩序に散乱していた。  そうして彼は玄関を乱暴に開け、開口一番にこう告げる。 「だから言ってるだろ。彼女の遺灰を渡す気なんて、さらさら無いって」  玄関の外で待っていたのは、時葬官のクロードとアリアス。いつものように、遺灰滞納者の元に直談判しに来ていた。 「まぁまぁ。すぐに返せとはいいませんから、せめてお話だけでも」 「そんな暇ないね。こっちは忙しいんだ。新作の〆切まであと3日しかないってのに、君らのせいで間に合わなかったらどうしてくれるんだ?」 「代わりにパトロンに土下座でもしてくれるのか? そいつはいい。ついでに違約金も払ってくれよ。君らの給料で払えるんならなぁ?」 「いやぁ、それはとても」 「遺灰の返納は義務です。拒否された場合は」 「僕はどうなったっていいさ。逆に聞くが、僕が返納を拒否したら、時葬官の君はどうなるんだい?」 「それは......困ります」 「ハッ、それはいいことを聞いた。なおさら返したくなくなったよ。それじゃ、二度と来るなよな」 「なっ、待ってください! 話はまだ!」  無慈悲にも、扉は固く閉ざされてしまう。  戸口に残されたふたりは、困り顔でただ立ち尽くすばかりだった。
/133ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加