第3話 告解

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 イルスン家の件がひと段落してから数日後の、月明りの眩しい満月の夜。業務を終えたアリアスとクロードは、横並びになって「ある場所」に向かっていた。ドリクトで最も賑やかな空間、夜の繁華街に。 「久々の晩酌、心が躍るね」 「飲み過ぎは体に毒ですよ」 「いいじゃない、今日は退院祝いなんだから」    浮ついた表情のクロードを、呆れ顔のアリアスが横目で窘める。そんな二人は繁華街入り口の派手なアーチをくぐり、煌びやかな通りにごった返す人々を掻き分けながら奥へ奥へと足を進めた。そうして辿り着いたのは、先日二人で来店したあの酒場だった。  繁華街の路地裏に建つその店は、古民家をそのまま改築したような簡素な造りで、電飾も使われていないために一目見ただけでは気付けない。外壁にはヒビが走り、看板の文字はかすれて抜け落ちている。自身の存在を主張する事無く、路地裏の闇に進んで埋没するようなその店に、アリアスはどこか親しみを感じていた。 「お邪魔するよ」 「いらっしゃい、クロードの旦那! おっ、例の新人さんも」 「どうも、こんばんは」  二人が入店すると、快いベルの音と共に坊主頭のマスターが陽気な笑顔で迎えてくれた。酒場の店主にしてはまだ若く、皺一つないその表情は活力に溢れており、褐色の巨体に蓄えた筋肉や作務衣の上にエプロンを巻いたその姿はマスターというよりも工場の職人を思わせた。 「いつもの席、空いてますよ。まあ、今日もこの有様ですから」    マスターは先客のいない店内を自嘲気味に見渡してから、両手を広げておどけてみせた。 「助かるよ。なら、今日もじゃんじゃん注文しないとね」 「へへ、助かりやす」 「いつもこうなんですか……?」  先程と同様にアリアスがクロードを見咎めるが、彼は一切構うことなく笑顔で窓際の席に案内する。そこはモノ・クロウスでの一件の後、二人で腰かけたあの席だった。テーブル脇の大窓は開かれており、砂を含まない透き通った夜風が心地よく肌身に触れた。またその窓からは、荒野に林立する巨大な時葬機が一望できた。
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