ほんの僅かな綻び

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眩しい朝の日差しが差し込むヴェルダニア王城。使用人や騎士達は日の出と共に活動を始めており、いつもと変わらない一日がスタートした。 しかし皆が活動する中で、ユーリ・ユン・ハーディテェルツだけはまだ寝室から出てくる気配が無い。 「ユーリ、まだ寝てるのか?」 彼を起こしに来たのはフランツで、天蓋カーテンを開けてベッドを覗き込む。シーツの真ん中にはぽっこりと膨らみがあり、フランツは小さく肩を落とした。 「こらっ、アンリが困ってる。早く起きて身支度をしないと……。」 フランツがシーツを捲ると、シルクの白いワンピースを着たユーリが、ぼんやりとした表情で身体を丸めて縮こまっている。 その頬は薄紅色に色付き、翡翠色の瞳はとろんと溶けたように伏せられていた。 「ん?起きてる?」 「……うん。」 「大丈夫か?顔が真っ赤……。熱でもあるんじゃ……。」 「だいじょうぶ、熱はない……。」 気怠げなユーリを抱き起こすと、彼の身体がじんわりと熱い。やはり体調が悪いのかとフランツが彼の額に手を当てて様子を伺うが、ユーリの視線はぼうっと宙を彷徨ったままだ。 「絶対おかしいって!熱いし!昨日少し雨に打たれたからか?風邪か!?」 「違う……風邪じゃない。」 ユーリがこうなった原因は勿論クロードで、昨日彼と話した内容が少しも頭から離れないでいる。 考えれば考えるほど、身体中が燃えるように熱く、まだユーリの脳内では状況が整理出来ていない。 「ねえ、フランツ……。」 長い亜麻色の髪を揺らして、ユーリがフランツにしがみつく。フランツは心配そうに眉を下げてユーリの顔を覗き見た。 「一応確認なんだけど、俺ってちゃんと男だよね……。こんな格好してるけど、女じゃないって分かってくれるよね?」 「はあっ!?何を言ってる!?」 「何かもう訳が分からなくって……。」 「ユーリは男だよ!まさか女装し過ぎておかしくなっちゃったのか!?」 「そうだよね、性別間違えてる訳じゃないよね!?こういう時ってどうすれば良いんだろう……。」 クロードに自分の全てが欲しいと求められた。 彼の言葉を思い出すと、胸が締め付けられるように苦しい。 ユーリはクロードのことが好きで恋人同士になったが、それでも今以上の関係になるというのは中々想像がつかない。 彼の求めていることがよく分からないままに、全てを委ねる判断をして良いのか分からなかった。 「……フランツ、恋人いたことある?」 彼の軍服の袖を引き、上目遣いで恐る恐る尋ねる。フランツは直ぐに、闇色の瞳でユーリを真っ直ぐ見下ろした。 「いないよ。昔から今までユーリのことだけが好きだから。他の人には興味無い。」 「あわわわっ……。」 「何を自分で聞いて自分で焦ってるんだよ……。」 助言を求める相手を明らかに間違えて、ユーリは自分を責める。 フランツはユーリが何に悩んでいるのか少しも分からないまま、寝乱れた彼の亜麻色の髪を手櫛で調えていた。
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