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フランツは傍にいるのが当たり前の、家族も同然の存在だ。そんな相手とキスなどと、気恥しくて出来る訳が無い。
しかし、今まで額や頬には冗談交じりにキスをされてきた。それが唇になるだけの話なら無理でもないような気がする。
ユーリの中でそう考えが至った。
「……大丈夫かも。」
「え?」
詰め寄っていたフランツの方が、ユーリの答えに戸惑いを浮かべる。
「俺、フランツなら多分いける!」
「ユーリ、正気か!?」
ユーリはフランツの顔を見上げると、翡翠色の瞳を静かに閉じる。
「ユーリ!?」
「んっ。どうぞ。」
あまりの急展開にフランツは顔を一気に紅潮させて目を泳がせている。その間もユーリは目を閉じたまま静かに待っていた。
「おかしくないか!?これ!?」
「確かに、おかしいような気もする……。」
「でも、して良いならするからな!」
フランツの手がぎこちなくユーリの頬に添えられる。
大丈夫とは言ったものの、いざフランツの吐息を間近に感じると、ユーリも緊張のあまり目を固く瞑った。
「ユーリ……。」
自分を呼ぶ声が聞こえ、ゆっくりと唇が重ねられる。
「ん……。」
「……やばい。」
フランツは一度唇を離したかと思うと、また再び角度を変えてユーリに口付ける。
「んむっ……。」
正直なところ一瞬で終わると思っていたユーリは驚きのあまり目を見開いた。
すぐ傍にはフランツの闇色の睫毛があり、今まさに彼と唇を重ねているのだという実感がユーリを襲った。
「やあっ……。」
「んっ、ユーリ……。」
フランツは啄むようなキスを何度も繰り返し、その度に短いリップ音がユーリの耳に響く。その柔らかい感触とほんのりとした熱に、ユーリはもう何も考えられなくなった。
「も……無理っ。」
薄く目を見開いてフランツを見ると、彼は夢中で唇を合わせたまま幸せそうに微笑んでいた。その表情の帯びた甘い雰囲気に、ユーリの胸が強く高鳴る。
やっと唇が離れて、二人はお互い顔を真っ赤に染めて見つめ合っていた。
「なんか、思ってるのと違った……。」
想像以上に愛を感じるような甘い口付けに、ユーリは放心状態でフランツを見ている。
「……ごめん、止まらなくなった。」
対するフランツも熱にうかされたようにぼんやりとしていて、心ここにあらずといった様子だ。
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