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翌日、まだ太陽も登りきらない早朝。
ユーリは自室で支度を済ませ、後は長い亜麻色の髪を編むだけだった。
腰より下まで伸びたその長い髪を編むのはなかなかの苦労だ。
彼はまだ重たい瞼を擦り、髪をとく。
「ん?」
いつもは静かな王城が、何故だか騒がしい。兵士たちの声や足音が部屋の外から響いてくる。
そしてにわかに、扉を猛烈にノックする音。
「ユーリ!起きてるか!一大事だ!」
「フランツ?」
ユーリがフランツの名を呼ぶと、彼が息を切らして扉を開ける。
「どうした?こんな早朝に。」
「大変だ!とにかくミーアの部屋まで来い!」
そのまま、ユーリはフランツに手を引かれて王城の回廊を走る。
結局、髪が編めなかったので、亜麻色の長い髪が走るのに合わせてさらさらと揺れていた。
「王様!王妃様!」
フランツが叫ぶ先のミーアの部屋の前には何故か王と王妃の姿が。他にも城の使用人達が集まってる。
「父上!何事ですか!?」
「おお!ユーリ!朝起きたらミーアがいなくなっていたんだ!」
王はユーリの肩を掴み、ぼろぼろと涙を零す。ユーリは王の言ったことが飲み込めず、口を開いたまま隣にいる王妃を見上げた。
「ミーアの寝室にこのようなものが。」
王妃の細く白い手に握られる一通の手紙。ユーリはそれを受け取ると恐る恐る開き、手紙を読む。
「……親愛なるお父様、お母様、ユーリへ。」
――親愛なるお父様、お母様、ユーリへ。
こんな直前になってみんなを裏切るようなことになってごめんなさい。
私はやっぱりヴェルダニア王国に嫁ぎたくはありません。
これがどれだけみんなや国民に迷惑をかけることなのかは分かっています。
それでも、私は自分の愛する人と愛する国で生きていきたいのです。
ミーア・トラン・ハーディテェルツより。
「…………。」
ユーリは手紙から顔を上げ、無言で王妃を見る。
「……ミーアは夜の間に王城を出て行ったようなのです。」
「ほ、本当ですか……。」
手の力が抜けて、手紙がはらりと床に落ちた。
こんなこと何かの間違いじゃないか、とユーリはただただ絶句する。
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