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あまりの出来事に、ユーリは目眩を覚え自分の身体が傾くのを感じる。
すかさず隣にいたフランツがユーリを抱きとめ、なんとか倒れることは免れた。
「どうやら、ミーアは庭師のネロという使用人と駆け落ちをしたみたいだ。」
「か、駆け落ち!?」
まさか、ミーアにそのような恋人がいたとはユーリも知らずにいた。
庭師のネロは王城の薔薇園の管理を任されていた使用人だ。なるほど、ミーアがあの場所をかなり気に入っている訳だ。
変に合点がいって、こんな時なのに感心してしまう。
ユーリは体勢を立て直し、王と王妃に向き直る。
「ミーアの捜索は!?」
「ヨルグ将軍を中心に、城の兵たちを向かわせていますが見つからないのです……。」
王妃も顔色が悪く、頭をかかえている。
なんとも暗い空気が回廊に漂う。
「俺もミーアを探しに……。」
「王様!大変です!」
ユーリの声と重なって、一人の兵士の声が響き渡った。
「ヴェルダニアから迎えの馬車がもう王都に着いてしまいました!騎士達を引き連れてそれはもう豪勢に……!」
「ああ!もう来てしまったか!」
「ミーア王女の支度が出来るまで城で待つと……。」
「…………。」
皆、言葉を発さなかったが考えていることは同じであった。
大国ヴェルダニアの王子との婚約をこんな形で破棄したとなれば同盟は白紙に戻るだろう。
それどころか、トゥーラクだけでなくヴェルダニアを敵に回すことになりかねない。
「……皆に箝口令をしく」
重く、静かな声で王が告げる。
「ミーアが城を出たことに関しては一切他言無用だ。他の兵にも伝えろ!」
「はい!!」
兵士たちが一目散に各方面へと散って行く。
ユーリはただ呆然とその光景を眺めていた。
「ユーリ。」
ふと、優しい声がしたかと思うと王が大きな手でユーリの頭を撫でている。
「お前は髪を編んでいないとますますミーアにそっくりだな……。」
「……父上?」
「うんうん、髪の色も瞳の色まで同じだ。正直、同じ格好をしていたら見分けがつかないよ。」
「こんな時に何を……?」
何かを察したのか、王妃も王の言葉に深く頷く。
「ええ、本当に、ユーリとミーアは瓜二つですわね。」
何やら怪しくなってきた雲行きに、ユーリは王から距離をとろうと後ずさる。
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