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大陸の南部に広大な国土を持つヴェルダニア王国。
温暖な気候と豊富な資源のおかげで、数代かけて大陸一の大国となった。
その王都、『エレンシュカ』は王国の最南端にある半島に位置している。
そして、王都のシンボルといえるヴェルダニア王城は、歴史ある荘厳な姿で青い海を背にそびえ立っていた。
「クロード王子。どちらにいらっしゃいますか?」
濃紺のローブを纏った若い男が、王城の長い廊下を歩きヴェルダニア王国第二王子の名前を呼ぶ。
「うーん、いないな。」
王子を探す彼の名前は、リヒャルト・グレル。この国の若く優秀な宰相である。
あまりにも若いうちに宰相まで上り詰めてしまったので、各方面から妬み嫉みを受ける毎日だ。
「クロード王子ー?」
彼の朝焼けの空に似た鮮やかな曙色の髪は、肩辺りで真っ直ぐに切り揃えられており、ただでさえ若く童顔な彼がさらに幼く見えてしまう。
「何の用だ。リヒャルト。」
リヒャルトの背後から、冷たく鋭い声が投げかけられる。振り向くとそこに立つ、白銀色の髪に深い青の瞳を持つ美青年。
正に探していた、クロード・ヴェルダニア王子である。
「探しました、クロード王子。王国北部の開墾についての記述はご覧になられましたか?」
「ああ。」
「ありがとうございます。数点追記がございまして……。」
羊皮紙を開くリヒャルトを、クロードは冷めた眼差しで見つめる。
「リヒャルト。やけに機嫌がいいな。」
「お、分かりますか?」
「下品な笑みを浮かべて気持ち悪い。一体何なんだ。」
クロードの言葉に、リヒャルトは曇り空を映したような灰色の瞳を薄く細める。
「近々素晴らしい届き物があるんですよ。山間部の小国から。」
「は?どうせまた訳の分からないことを企んでいるんだろう。」
「王子、是非楽しみにしておいて下さい。絶対驚きますから。」
「……くだらない。」
クロードはリヒャルトから羊皮紙を奪うと、そのまま王城の廊下を一人歩いて行ってしまう。
「ふふ、クロード王子。私は貴方を王にする為ならなんだって致しますよ。」
王城の廊下にはリヒャルトの小さな呟きと、クロードの規則的な足音だけが響いていた。
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