あたりまえの存在

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「あのさ、笑わないで聞いてほしいんだけど……。」 「うん、何?」 ユーリが上目遣いでフランツを見ると、彼の闇色の髪が爽やかに風に靡いている。 改めてフランツの顔は整っているなと、ユーリは感心していた。 「何だよ、人の顔じっと見て。」 「あ、いや!それで悩みって程でも無いんだけど、クロード王子に突然キスされちゃって!」 「…………。」 さらりと告げられたその内容を、フランツは飲み込めずに固まってしまっている。 「俺も驚いてさ……何で男の俺にキスなんかするんだろうって。しかも二回も!もう意味分からなくてさ…… 。」 頬を染めて照れるユーリを前に、フランツは無表情のままゆっくり口を開いた。 「……キス?」 「うん、おかしいよね?」 フランツの闇色の瞳が大きく見開かれ、揺れている。そして次の瞬間にはユーリの手首が強く掴まれ、フランツに引き寄せられていた。 「はぁ!?何だよそれ!どういうことだ!?」 「いや、だから俺もよく分からなくて困ってるんだって……。」 「クロード王子はユーリが男だって知ってるのに!?」 「……うん。」 どちらのキスもミーアではないと気付かれた後である。ユーリは凄い剣幕で詰め寄ってくるフランツを前に、眉を下げて困り果てていた。 「絶対に許せない!クロード王子、切る!」 「わああっ!辞めてよ!別に攻撃された訳でも何でも無いし!」 「はぁ!?無理!刺し違えてでも殺りに行く!」 「物騒なこと言わないで!たかがキスだから!」 自分を宥めるユーリの言葉に、フランツは動きを止める。 「……俺はユーリが誰かとキスしたりするのは嫌だ。気にする。前も言っただろ?」 「フランツ……。」 そして力強く、ユーリを抱き寄せる。 「……他の奴に触られたくない。」 「ええっ?」 「俺のユーリだ。」 耳元で、少し低い囁き声が響いてユーリは身体を震わせる。フランツの腕の力は強く、抜け出すことが出来ない。 「もう!クロード王子も多分そんなに深い意味でした訳じゃないってば!」 「なんだよ、特に意味の無いキスなら許すのか?」 「いや、そうじゃなくて……!」 「じゃあ、俺が意味無くキスしたらユーリは受け入れる訳?」 もはや話がかなり脱線しているが、フランツが真面目に言っているようなのでユーリも真面目に思案する。
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