あたりまえの存在

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しばらく顔を赤らめて、向かい合ったまま俯いている二人。 「……ユーリ、ごめんな。嫌だった?」 「いや、嫌とかでは無いんだけど……想定外で。」 「そうだよな、俺……ユーリの臣下なのに調子に乗りすぎた。」 フランツはユーリに背を向けて、塔の階段へと向かっていた。 その彼の表情がなんだか曇って見えて、ユーリは言葉に詰まる。 「もうちょっと立場を考える。さっきのは忘れてくれ。」 ユーリは唇を噛み締めると、亜麻色の髪を揺らして彼の後を追う。 そして背後から勢い良くフランツの背中に抱きついた。 「!?」 「そうじゃないよ。俺、フランツのこと臣下だとか思ったことない!だから調子に乗ってるとかないし、立場を考えなくてもいいから!」 「ユーリ?」 思ったより強いユーリの腕の力に、フランツは驚いて身体を硬直させている。 「フランツは俺の護衛だけど……それだけじゃなくて幼馴染だし、親友みたいなものだし、兄弟みたいだし、家族だから!」 「どうしたんだよ、急に。」 「だから、俺に気を使ってそんな寂しい顔しないで?」 フランツは肩越しに自分の背中に顔を埋めるユーリを振り返る。 白珊瑚の髪飾りが、日の光を受けて光っていた。 「でもさっきのキスは思ったよりその……意味の有る感じのキスだったから驚いて……。」 目を潤ませているユーリを見て、フランツは彼へと向き直る。 「……俺、ユーリのこと好きだから意味なくキスとか出来なかった。」 「は?」 フランツの指がユーリの細い指に絡められる。 「キスしてる間ずっとユーリのこと好きだって考えてたんだ。」 「……ちょっと、フランツ。何言ってんのさ。」 「本当はこんな気持ち、墓場まで持ってくつもりだったんだけど……。」 フランツの唇が、ユーリの鼻先に落とされる。 「好きだよ、ユーリ。ずっと昔からユーリのことだけが好きだ。」 夜の闇のような深い色の瞳が真っ直ぐにユーリを見ている。 「こんなこと言って、ユーリのことを困らせるだけなのは分かってる……。」 「フランツ……。」 「俺、本当に駄目な奴だ。ユーリの傍にいるだけで良いって思ってたのに、触れたら気持ちを止められなくなった。」
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