あたりまえの存在

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自分へ迫るフランツの胸を、ユーリは細い腕で軽く押し返す。 「……わっ、待って。」 しかしその腕をフランツに掴まれて、強く抱き寄せられてしまった。 「このまま、ユーリのことを連れ去ってしまいたいくらい。」 「……っ!」 「本当に好きなんだ。」 聞き慣れたフランツの声、いつも近くに感じていたフランツの匂い。 強引に抱き締められているにも関わらず、ユーリは少しも嫌な気がしていない自分に気付いた。 「フランツ。」 「……何?」 「俺も……フランツのこと好きだよ?」 フランツの腕の中で、彼の顔を見上げる。 「凄く大切に思ってる。俺には絶対にフランツが必要だ。」 「……ユーリ。」 「けどそれが、フランツと同じ意味の好きなのかどうか分からない……。」 ふと、ユーリの額にフランツの額が軽くぶつかる。 「……いいよ、今はそれでもいい。」 「ごめん、中途半端にしか答えられなくて。」 「ユーリが俺を必要としてくれるなら嬉しい。」 二人は鼻を擦り合わせて、小さく笑う。 「ずっとユーリの傍にいるから。」 「……うん、そうして。俺もフランツがいた方が嬉しいから。」 ユーリは傍にいて当たり前だと思っていたフランツの存在が、自分の中で非常に大きなものだったことを再確認して胸が温かくなるのを感じていた。 *** 「……とんでもないものを見てしまいました。」 ヴェルダニア王城の上階にあるクロードの執務室に、リヒャルトの呟きが響き渡る。彼は執務室の窓辺でオペラグラスを片手に熱心に外を見上げていた。 彼の隣にはディータの姿もあり、同じくオペラグラスを片手に外を見上げている。 二人の視線の先は、今まさにユーリ達がいる塔の上だ。 オペラグラス越しに、ユーリとフランツの寄り添う姿がリヒャルトの目に映る。 「……ミーア王女とフランツ殿。めちゃくちゃイチャついてるんですけど。」 「…………。」 ディータはオペラグラスを下げると、深い溜息をついて項垂れた。 「なんですか、ディータ。」 「嗚呼……ミーア王女が誰かと仲睦まじくしている様子を見ると胸が痛みます。」 「……すっかり恋煩いをなさってますね。今までの貴方が嘘のようです。」 「ううっ……フランツ殿。憎いです。」 「いや、あれは許せませんね。ミーア王女はクロード王子の婚約者ですよ。」
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