あたりまえの存在

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憤る二人の背後から、規則的な足音が執務室に響き渡り、静かに影がかかる。 「リヒャルト、ディータ。人の執務室で一体何をしているんだ。」 曙色の髪を揺らしてリヒャルトが振り返ると、そこには心の底からの呆れた表情を浮かべたクロードが立っていたのだった。 「あ、クロード王子。お邪魔しています。この部屋からが一番よく観察出来そうでしたので。」 「はぁ?」 「だって見つけてしまったんだから仕方ないじゃないですか。気になるじゃないですか。」 「……またくだらないことを考えているな?」 クロードの視線がディータの手元のオペラグラスへと移る。 「おい、何を見ている。」 「あ、いや。クロード王子。面白いものでは無いので見ない方がよろしいかと。」 「うるさい。いいからさっさとそれを貸せ。」 クロードはディータの手からオペラグラスを奪うと外の景色を覗き込む。 そして直ぐに、彼の視線が塔の上にいるユーリとフランツを捉えた。 リヒャルトとディータは唇を真一文字に結んでクロードの様子を見守っている。 「…………。」 水を打ったように静まり返る執務室。 そしてその静けさを破るように、クロードがオペラグラスを床へ落とした。 「!?」 リヒャルトとディータが揃って目を見開く。 クロードは無表情のまま、床に落ちたオペラグラスを踏み潰した。割れたレンズが煌めき、辺りへと散らばる。 「……ディータ。」 クロードは桜色の薄い唇を開き、ディータの名を呼ぶ。 「……何でしょうか。」 「あの塔に今すぐ行って来い。騎士達以外は立ち入り禁止だと彼らに教えて差し上げるように。」 「はい……仰せのままに。」 クロードの表情はいつもと少しも変わらないが、その声は低く張り詰めていた。また、必要以上に丁寧な話し方も棘があるとディータは身を縮めた。 「リヒャルト。」 「はい、クロード王子。なんでしょう?」 「……あのミーア王女の護衛について知ってることを教えろ。」 「おやおや、クロード王子。怒っていらっしゃるんですか?」 「茶化すな。」 「はい、申し訳ございません。」 リヒャルトは灰色の瞳を細めて愉快そうに微笑むと、クロードへと向き直る。 「彼の名はフランツ・クライネルト。ハーディテェルツ王国兵団の一番隊隊長です。英傑ヨルグ・クライネルトの長男ですね。」 「ほう。」
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