あたりまえの存在

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クロードは短い舌打ちをすると、気だるげに頬杖をついてリヒャルトを見下ろしている。 「……クロード王子。単純に私は、恋だとか愛だとかにかまけている暇は無いのです。」 「うん?」 「どうしても、やり遂げなければならないことがあるので。」 オペラグラスを全て片付け終えたリヒャルトは肩を回して柔軟運動をしている。彼が動く度に関節が鈍い音をたてていた。 「素敵だとは思いますけどね。私にはその余裕がありません。」 「……ふぅん。」 「貴方からきいておいて興味無さそうですね?」 クロードはラピスラズリの瞳を細めて不敵な笑みを浮かべる。 「いや、お前のやり遂げなければならないこととは一体何だろうかと。俺すら利用して何処を目指しているのか気になるな。」 「……利用だなんて人聞きの悪い。」 「まあ、俺もお前が充分な働きをしてくれているので何も言わないがな。」 リヒャルトが顔を伏せると、彼の肩あたりで真っ直ぐに切り揃えられた髪がさらりと揺れる。そしてその髪は彼の幼いかんばせを隠してしまう。 「……クロード王子、お邪魔しました。そろそろ職務に戻ります。」 「ああ。」 リヒャルトはローブを翻し、執務室の扉へと向かう。クロードは彼が出て行く音を聞きながら静かに何かを考えこんでいる。 クロードが顔を上げて窓の外を見ると、塔の上にユーリ達の姿はなく、清々しい青空だけが広がっていた。 *** すっかり日も落ちて暗闇に包まれるヴェルダニア王城。 ユーリは自室でクロードの部屋へと向かう準備をしていた。彼の背後ではアンリが長い亜麻色の髪を三つ編みしている。 「ユーリ王子。」 「……何?」 「なんか散歩から帰って来てから変じゃないですか?」 アンリはブラウンの瞳を細めて、鏡越しにユーリの顔を見つめた。ユーリはどこか浮かない表情で目を伏せている。 「……考え事が増えてしまって。」 「まあ、折角の気分転換でしたのに……。」 それ以上何も聞くことが出来ず、アンリはユーリの髪を編み上げた。 「はい、出来ましたよ。」 「ありがとう、じゃあそろそろ行ってくる。」 ユーリは袖口に青い刺繍の施された漆黒のローブを纏うと扉へと向かう。 今日もクロードによって人払いがされているらしい、居室の前には騎士達の姿は無く、フランツだけが不機嫌な顔でそこに立っていた。
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