いざ、ヴェルダニア王国へ

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今日はいつになく兵士達が忙しく駆け回る、ハーディテェルツ王城。 その回廊に第一王子の悲鳴が響き渡る。 「ひぃぃぃ!!!痛い痛い!!」 「ユーリ王子!このくらいで音を上げていてはいけません!」 その悲鳴は第一王女であるミーアの部屋から。 「わあああ!!無理無理!!」 ユーリは天蓋付きのベッドの柱にしがみつき、顔に苦悶の表情を浮かべて痛みに堪える。 その背後では、侍女のアンリが歯を食いしばりコルセットを締め上げていた。 「王子!我慢です!」 アンリは膝でユーリを押さえつけ、さらにコルセットをキツく締め上げる。 「よし、出来ました!」 「く、苦しい……」 「休んでる暇はありませんよ!ドレスは我が国の伝統的な深い緑色のものにしましょう!」 栗色のくせっ毛と、そばかすがチャームポイントの彼女はアンリ・ギースラー。 ミーアの世話を任された侍女である。 ユーリ達より四つ歳上の姉のような存在で、若いながらも王から頼りにされていた。 「こんなごわごわした服、動きにくい……。」 「何を言ってるんですか。ボリュームが大事なんですよ。」 アンリはユーリにたっぷりとパニエの入ったドレスを着せると、次は華美な金色のドレッサーの前に座らせる。 「髪を結いましょう。」 「いつもと一緒じゃ駄目?」 「駄目に決まってます!可愛くするので大人しく前を向いていてください!」 そう言って、慣れた手つきでユーリの髪を結い始めるアンリ。 ユーリは鏡越しに自分の髪が編まれていくのを眺めている。 「両サイドを編み込んで、後ろはシニヨンにしましょうか?」 「……よく分からないからなんでもいい。」 あっという間に、女性らしく華やかな髪型に仕上げられ、ユーリは目を伏せる。 まさか、自分がこんな姿になる日が来るなどと、彼は少しも思っていなかった。 「髪飾りは我が国自慢の宝石をあしらったものにしますね。ダイヤとエメラルドで用意します。」 「……うん、ありがとう。」 アンリに全てを任せ、ほぼ放心状態のユーリ。 髪飾り以外にもイヤリングやネックレスなどの装飾品が用意され、気がつけば化粧までされている。 変わっていく自分の姿を見ていられず、ユーリは静かに目を閉じた。 「ユーリ王子、終わりましたよ。」
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