いざ、ヴェルダニア王国へ

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「ヴェルダニアの王都、エレンシュカには我が国自慢の馬車でも十日はかかります。」 「そんなに……。」 ディータの言葉に、ユーリは自分がとても遠い場所へ向かうのだと少し不安な感情に襲われた。 生まれてきてから今まで、ハーディテェルツ王国を出たことのない彼にとって初めての体験だ。 「では、ヴェルダニア王国へ向けて出発します。」 馬車にはユーリとアンリが乗り、ディータやフランツ、その他の騎士達はそれぞれの馬に跨る。 王城の広場では王と王妃、使用人達や王国兵士たちが総出で走り出す馬車を送り出してくれている。 「……っ!」 ユーリは座ってはいられず、窓から身を乗り出して皆を振り返った。 「父上!母上!みんな!いってきます!」 「ユ……ミーア!行ってらっしゃい!」 「くれぐれも気をつけて!」 王と王妃も、立場など忘れて父と母としてユーリに大きく手を振る。 ディータはそんなユーリ達の様子を見て小さく肩を落とし、集団を先導する為、馬に鞭を打った。 「……十四歳ってまだまだ子供だよなあ。」 ディータが肩越しに馬車を振り返ると、ユーリは亜麻色の髪を風で揺らして、まだ名残惜しそうに小さくなる王城を見つめていた。 *** 「ユーリ王子。ヴェルダニアへ着くまでの間に、女性としての立ち振る舞いを見直さねばなりませんね」 ヴェルダニア王国へ向かう馬車の中で、アンリが小さな声で囁いた。 「まあ、王子はもともとマナーや教養はミーア王女よりおありでしたから……大丈夫かと思いますが。」 「はぁ……。」 「あとは女性として、ただ歩くときもただ座っているときも、か弱く美しい淑女を演じなければなりません。」 ユーリはアンリの言葉に眉を下げて、不満気に唇を尖らせる。 「えぇ……。そんなのどうすればいいか分かんない。」 「吹けば倒れそうな、くらいの繊細な女性がモテるんですよ。あとはダンスも踊れないと。」 「俺、ダンスは踊れるけど?」 キョトンと目を丸めるユーリを見て、アンリは深くため息をついた。 「ユーリ王子、女性側で踊れるんですか?」 「えっ!?」 アンリはやはり、と肩を竦めて呆れた様子だ。 ユーリは幼少期から教師にダンスを教わっていたが、踊れるのは勿論男性側だけである。
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