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「そうか……。俺、女側で踊らないと駄目なんだ。」
「そうですよ。ドレスを着ていてもしっかり踊れるようにしないと。」
アンリに突きつけられる現実に、ユーリの顔が次第に青ざめていく。
「大丈夫ですよ。ミーア王女もダンスは全然でしたから。ユーリ王子の方がお上手じゃないですかね?」
ふと、アンリが少し遠くを見てブラウンの瞳を細める。
「……アンリ。」
「どうしましたか?王子。」
すぐにユーリの目線に気がつき、小さく笑うアンリ。
いつも気丈なアンリが見せるその態度に、ユーリは言葉が詰まる。
「ミーアが心配かけてごめん。」
「王子……。」
アンリとミーアが幼い時からほとんど姉妹のように過ごしてきたのを、ユーリは知っている。
自分が仕えている主人が急にいなくなってしまうなんて、辛くない訳がない。
ユーリはアンリの気持ちを思うと、かける言葉が見つからなかった。
「私こそあんなにお側にいたのに、ミーア王女が追い込まれていたことに気付かずで……侍女失格です。申し訳ありません。」
「アンリが謝ることじゃない!」
「ユーリ王子はお優しいですね。」
アンリはそう言って、ユーリの手をとり微笑む。
「本当は、王女が何も仰ってくれなかったことがすごく寂しいです。あのままお城でずっと王女のことを待つことは出来なかったと思います。」
「…………。」
「だから、ユーリ王子の侍女としてヴェルダニア王国へ同行できることになって、私すごく助かったんですよ。」
そして、ぱんっと手を叩くアンリ。
「ミーア王女が帰ってくるまで、改めてよろしくお願い致します。それで王女が帰ってきたら二人でお説教をしましょう。」
「あははっ!そうだね。こちらこそよろしく、アンリ!」
ユーリはアンリの笑顔で、自分の中にあった不安な気持ちが少し晴れたような気がして心から笑った。
***
ヴェルダニア王国へ向かう、十日間。
道中、様々な街に立ち寄りながらなんとか国境を越え、遂に首都エレンシュカへと辿り着いた。
ユーリが馬車の窓からそっと外を覗くと、そこにはハーディテェルツ王国とは比にならない大都市が広がっていた。
賑やかな石造りの大通り、立ち並ぶ商店、遠くまで広がる居住区、大きな鐘の鳴り響く塔。巨大な港に船舶するいくつもの帆船。
「すごい……!」
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