いざ、ヴェルダニア王国へ

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「はい、では私はこれで失礼致します。」 去り際に、ディータはユーリの手をさり気なく引いた。 「ミーア王女、貴方と離れるのが名残惜しい。……またお会い出来る時を楽しみにしています。」 突然耳元でそう囁かれ、ユーリは訳が分からず顔を真っ赤にしてディータを見上げる。 するとディータは澄ました笑顔を浮かべて、ユーリを見下ろしていた。 「ディータ。貴方って人は……。」 二人のやり取りを見ていたリヒャルトが眉を顰めて間に割り込み、ディータの手を払う。 「女たらしもいい加減にしなさい。貴方の剣の腕を見込んで王女の迎えに任命しましたが、間違いだったかもしれませんね……。」 「王女があまりにも美しいので、つい。」 リヒャルトに睨まれても、ディータは笑顔を崩さないままである。そんな彼を見てリヒャルトは深いため息をつくと、ユーリを振り返った。 「王女、この男は仕事は出来るのですが非常に女好きでして……。守備範囲はゆりかごから墓場まで!道中手を出されませんでしたか?」 「い、いえ。頬にキスをされたぐらいです。」 「はぁ!?ディータ!!」 リヒャルトがディータへ怒号を飛ばすが、彼はもう既に広場の向こうへと退散していた。 「待ちなさい!王子の婚約者にまで手を出すなんて!」 落ち着いた様子だったリヒャルトが声を荒らげるのに驚いて、ユーリは彼を見上げた。 アンリもフランツも、少し冷めた眼差しでディータの背中を見送っている。 「ミーア王女、大変失礼致しました……!彼にはよく言い聞かせておきますので!」 「あ、いえ。おかまいなく……。」 目の前の彼がヴェルダニア王国の宰相だということは分かっているが、目くじらをたてて怒る姿がなんだか幼くてユーリは思わず小さく笑ってしまった。 「こほんっ……。では、居館まで案内致します。」 そう言って少し恥ずかしそうに頬を赤らめるリヒャルト。 ユーリはヴェルダニア王国に冷酷で厳しいイメージを抱いていたが、思っていたよりも温かい雰囲気に少し緊張が解れてくるのを感じていた。 *** 「つ、疲れたっ!」 リヒャルトに案内された部屋はハーディテェルツ王国の自室よりも遥かに広く、豪華絢爛という言葉がぴったりだ。 ユーリは巨大な天蓋付きのベッドに飛び込むとそのままシーツに顔を埋める。
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