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「そんなこと言われたらドキドキしちゃうから駄目っ……!」
「ユーリが俺のことを意識してくれるなら言っちゃうな。……俺、恋人にしたいのはユーリだけだよ。まあ、今はクロード王子の恋人だってことは理解してるけど。」
「ひえぇ……フランツ、これ以上俺を悩ませないでっ。」
フランツから身を引き、再びシーツに包まるユーリ。
「誰か、相談出来そうな……こういうことに詳しい人っ!」
考えを巡らせたユーリは、はっと一人の人物が思い浮かんだ。
ユーリの知る中で一番恋愛経験が豊富、もとい『そういった』経験が非常に豊富な男性。
「フランツ。俺、着替える!それで、ちょっと出掛けてくる!」
「え?どうした急に……出掛けるならついて行くけど……。」
「いや、大丈夫!騎士様について来てもらうから!フランツは休んでて!」
「ええっ?」
思い立ったら即行動なユーリはベッドから飛び出し、アンリの元へと駆け出して行ったのだった。
***
王城に併設された、ヴェルダニア王国騎士団の兵舎。その長い廊下を、ディータが部下の赤騎士と並んで歩いている。
「例のニコラス卿襲撃の件で、王城の警備体制を見直すことになった……。」
「しかし、中々人手不足な状況でして……ん?あれは何でしょう?」
真剣に話す二人の行く先に、赤と黒の入り交じった賑やかな人混みが唐突に現れた。
ディータがじっと目を凝らすと、赤騎士も黒騎士も皆が頬を染めて誰かを取り囲んでいる。
そしてそこまで騎士達を虜にする存在を、彼は一人しか知らない。
「ちょっと失礼っ!」
部下達を掻き分けて人混みの中心部まで行くと、彼の視界に鮮やかなサックスブルーのドレスが飛び込んだ。
その眩しさに目を見開くと、煌めくブルーサファイアのイヤリングと、花の綻ぶような笑顔が映り込む。
「ミーア王女!?」
「あっ!ディータ様。おはようございます。ディータ様にお会いしたくて来たんです。」
「えぇっ!?わざわざ私に会いに!?お一人ですか!?」
「護衛の騎士様に送って頂きましたっ。」
楽しそうに声を弾ませるユーリに、騎士達は皆すっかり見蕩れていた。どうやらディータに会いに来たのだが、彼等に囲まれたせいで動けずにいた様子だった。
「お前達、持ち場に戻れ!黒騎士はアベルに言いつけるぞ!」
「ああっ……男だらけの騎士団に咲いた一輪の花がっ……。」
「ミーア王女可愛いっ!癒しです!」
ユーリの人気は、ヴェルダニア王国騎士団でも留まることを知らない。
誰もが見蕩れる花のかんばせと、溢れる愛嬌。そして、身分など関係無く分け隔てない態度に、皆はすっかり彼の虜になっていたのだ。
「ほら!どいたどいた!ミーア王女は俺に用事なんだから!」
「はーい、分かりましたっ。」
「エーレンベルク隊長、いいなあ……。」
やっと騎士達を散らし、ディータがユーリの手を取る。ユーリは頬をぽっと染めて、困ったような顔でディータを見上げていた。
「ディータ様、お仕事中に申し訳ございません……。」
「私は全然大丈夫です!むしろ嬉しすぎて夢かと思ったくらいですよ!ただ、ここは危ないのであまり来て欲しくないですかね……。」
「えっ?騎士の皆様がいらっしゃるからとても安全な場所じゃないですか?」
「いや、むしろそれが危険なんですが……。」
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